ひろば掲載通算 31、 32、 33、 34、 35 号
平成3年(1991年)4月17日、5月4日、5月31日、6月12日、6月29日

掲載通算31号(平成3年4月17日)

   空白の時

 このところ、連日のように、お年寄りの訃報が続いています。1日から5日までに、知人や友人と、3回も会葬しました。新年早々に、柱と頼む息子に先立たれました。近くの知人の顔は、見るにしのびなく、列席していて、もらい泣きしてつらかった。
 友人の奥さんが亡くなり 問した時、「何歳になった、68だ、ふーんおれの女房とは7つも違うんだな」と口をすべらし、笑われてしまいました、死者は年をとらない。面影の中に住んでいる亡妻はまだ、60歳、あれからの年月は私の心の空白の時であろうか。
 札所巡礼で親友となりましたS氏の長女は、行年32歳、表面は明るくかったつに過ごされている親友夫妻の心には、いまだそのままの年齢で住まわれているのだろうか。若く、美しいままで亡くなられた人の面影は、いつでも若く、ときにうらやましい。そこはかとない哀愁にふける一時はままありますが、私は天命を全うし、亡妻の分まで地域会社の役に立つ方を選んだ。

掲載通算32号(平成3年5月4日)

   他人のことも考えよ

 このところ、自分本位で他人の迷惑も考えず、行動する若者が多く見られます。退く勇気も知らず、猪突猛進、暴走の果ての自滅、冬山などでの遭難などは、ちょっとした自分勝手が、自己のみならず、他人までも巻き添えにしてしまう。自己の命は仕方ないとしても、大勢の人がそのために出動される迷惑を、少しでも考えて行動しているのでしょうか。
 冒険家気取りで、現地人さえ危ぶむパキスタンの無法地帯での川下り、その挙げ句人質になってしまい、現場当局はおろか、日本政府にまで多大の出費を強いる結果となった。大学生3人組の独り善がりには、あきれてしまいました。親不孝の極致であると思います。これを1生忘れないで、社会に尽くせる人間に育ってほしいと願わずにはいられません。
 「君子危うきには近寄らず」「虎穴に入らずんば・・・」は正しい勇気である。あまりにもしかられず、手もあげられず、甘やかされてなんでも思い通りになる人生は果たして幸福だろうか。一度、挫折すればボロボロに崩れてしまうだろう。他人を思いやり、自己をおごらず、大胆の中にあっても慎重に事を運ぶ人間に育ってもらいたい。

掲載通算33号(平成3年5月31日)

   カッコウの季節と下駄の音

 5月17日の早朝、今年は遅れて来ないのかと心配していましたカッコウが来ました。なんともいえぬその鳴き声、久しく会えなかった旧友の訪れのようにうれしくなりました。
 初夏を告げるこの声が聞こえなくなったとき、それは環境破壊のときで、夢も希望も散り果て、はかなく悲しい時代となるのではないでしょうか。信楽線の大惨事、実直に政道を歩み、志半ばにして不帰の客となった安倍晋太郎氏。あらゆる障害を克服した日本の相撲界の大功労者、千代の富士の引退と、寂しく暗いことばかり続きましたが、カッコウの到来とともに、私の下駄(げた)履き人生の季節ともなるのです。
 カッコウの声と、老人クラブの人たちのゲートボールの快音を楽しみながら、裸足になって土と親しむ農作業、まさに私の桃源郷であります。夜など時々カラオケに出かけますが、下駄履きもわれながら板についたと自負しているし、友人にも合点されています。「下駄が履けなくなると”がん”になる?」と教えられ、ことごとに吹聴しています。この間もつられて、クラス会で下駄を土産にした旧友もいました。なんともいえない響き、そしてカッコウの鳴き声、日本人にうまれた幸せをしみじみと感じています。

掲載通算34号(平成3年6月12日)

   販売競争

 わが町の中泉地区は、県道高崎・渋川線の両側に、相次いでガソリンスタンドが3店も開店、既存の店と合わせて4店が集中しています。当然サービス合戦となり、消費者にとっては、実にありがたいことです。
 この間、町になった吉岡町は、昔からガソリンスタンドが多く、安くてわが町からも買いに行く人がいました。県道沿いだけでも8店あり、生存競争は大変だろうと、他人事ながら心配しております。中には古新聞、古雑誌などを持参すれば、重量に応じて点数をくれた上、その売上代金は、地区や町の福祉に寄贈するという店まで出現、思いつきだけでなく、長く続けてくれることを望みたいと思います。

掲載通算35号(平成3年6月29日)

   地に落ちた”栄光”

 明大の替え玉受験でショックを受けました。飯田長姫高校の投手として、昭和29年春のセンバツ高校野球で優勝。「小さな大投手」として、一世を風靡(ふうび)し、ときには甲子園大会で解説をしていた、かつての名高校球児の光沢毅さんが、逮捕されたという。驚くとともに、人間性の弱さに失望しました。
 なにがそうさせたか知らないが、人間とは欲の深い者、あまりチヤホヤされると、つい図に乗り、1つの小さな非が雪だるま式に大きく転がるのではないでしょうか。私など何もないので、言いたい放題で65年も生きてきてしまいました。「カラ馬に怪我(けが)なし」とか。なまじ有名になるとつい天狗(てんぐ)になるのでは。
 明大事件に関連し「女ののど自慢」でワサビの役をしていた、なべおさみさんの悲劇。そしてその責任感の見事さ。どこかの政治家や役人に、見習って欲しい男らしさです。そしてこんな事件はもう払い下げにしてほしいと思います。

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